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Technical 001 FIRとIIR? デジタルフィルターの話

      2020/02/15

FX01Jシリーズに搭載されているFIRとIIRのデジタルフィルタ切り替え機能について、技術的な解説と使いこなしを書こうと思う。

FIRとは有限インパルス応答(Finite Impulse Response)
IIRとは無限インパルス応答(Infinite Impulse Response)
である。

通常、音質優先の周波数特性制御にはFIR、あえて音質的な特徴を出したり、回路構成を簡単にする時はIIRである。
アナログのイコライザー回路では殆どIIRが相当する。

FIRが使われているところは、業務用(主にマスター用)、ハイエンドオーディオのデジタルEQである。
IIRが使われているところは、シンセサイザーの音色を構成する時変動フィルター(DCF等)、業務用(主にミキサー用)、通常のオーディオのデジタルEQ機能である。
フィルターの次数はPOLEとも言う。
1次(1POLE)は6dB(デシベル)/oct(オクターブ)で、周波数が倍(オクターブ上)、または半分(オクターブ下)のところに対して、変化量(レベル)が2倍になるところである。
電子ピアノ等ではFIRまたはIIRの2POLE(12dB/oct)が多く、シンセサイザーでは通常4POLE(24dB/oct)オーバーハイムなどの少し特殊なフィルタのものでは8POLE(48dB/oct)が設定出来るものもある。
初期のディジタルフィルタ無しのCDプレイヤーでは5POLE(30dB/oct)のアナログフィルタを搭載したモデルがあったように記憶している。帯域外ノイズをなるべくカットする為に高い次数のフィルタを使いたいが、音質に対する影響とコストとの兼ね合いで5次を選んだという話を聞いた。

FIRの特長は位相直線型に設計出来る事である。(全てが位相直線になっている訳ではない事に注意)回路内に無限ループするフィードバックが無い為、入力に対する動作が安定している事も重要である。
弱点は群遅延が発生する事で、2000年代に入ってから、ハイエンドオーディオのフルデジタルコントロール(プリ)アンプではIIR構成のEQのモデルが増えて来ている。また、計算量がIIRより膨大な為、高性能なDSPが必要になるところがネックであったが、近年では計算量は問題になるほどでは無くなってきた。
DAコンバータのデジタルフィルタは殆どがFIRであり、音質が良いとされるものほど通過帯域内に影響が少なく、遮断帯域をしっかり除去させる為に凝った回路設計を行っている。

IIRの特長は計算量が少なく状態でも急峻な特性が実現出来るところである。計算量が少ないという事は、消費電力量が少ないので、モバイル等に向いているという事でもある。また、計算量が少ないので低遅延を実現しやすく、映像系とのタイミングの問題で音声のタイミングを早めたい時に有効である。
また群遅延が発生しないメリットもあり、近年はハイエンドオーディオでもデジタルプリアンプのEQに採用される事があるのは前述の通りだ。
弱点は位相回転が避けられない事と、入力信号に対する反応が一部不安定であるところだが、オーディオ用途のEQやローパス、ハイパスフィルタでは、不安定になる領域は殆ど回避するようにパラメータを設定している事が多い。

実際の使いこなしでは、デフォルトはFIRに設定しておくのが基本だが、IIRで音質感の違いを楽しむという感じだ。デジタルフィルタのメソッドはFIRもIIRもそれぞれにいろいろなタイプがある為、一概に言える傾向は少ないが、IIRにする事で「高域の抜け感」「音の輪郭感」「空気感」「解像感」などが変わる事がある。

筆者がFX-01Jで感じたのはロック系やヘビーメタル系やEDM系をIIRで聴くとなかなか輪郭の立ち方に面白い変化を感じたが、ユーザーの皆さんは如何だろうか?
積極的に使いこなしてほしい機能のひとつである。

PCM510xAシリーズのFIRとIIRの設定の違いは、以下のpdfの17ページ以降に書いてあるので、参考にしてほしい。
http://www.tij.co.jp/jp/lit/ds/symlink/pcm5102a.pdf

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谷原 寿栄

谷原 寿栄

音楽業界で30年余年 ミックス/マスタリングエンジニア オーディオ製品開発のアドバイザー 趣味はオーディオとクルマ
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