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Labo’s View 025 FX-AUDIO- TUBE-03J+

      2020/01/17

『細かく手を加えてリニューアルされた、トーンコントロール付き真空管プリアンプ』

TUBE-03JのアップデートモデルTUBE-03J+が発売された。機能的には同一であり、付属の真空管が6K4に変更されている。6J1真空管の市場流通量枯渇への対応のようだが、回路や基板のアートワークもしっかりブラッシュアップされている。非常に使い勝手の良かったTUBE-03Jがどのように進化したのか?TUBE-01Jとの使い分けやTUBE-03Jとの違いもレポートしたいと思う。

真空管装着の儀では、足の曲がり、輸送中の球の破損が無いかを確認して、ピンの無い方向をソケットの端子が無い方向と合わせて、ピンの位置を調整しながら、まっすぐに差し込む。本機付属の真空管6K4は6J1より長い。発熱はTUBE-01Jで6J1を使っている時より多い。
本機の接続はパワーアンプの手前、ヘッドフォンアンプの手前、ADコンバータの手前等の既存の配線に割り込ませるイメージで行う。扱える信号レベルは入力、出力ともラインレベルである。フォノイコライザーの機能は無いので、直接レコードプレーヤーのカートリッジの信号は受けられないので、注意してほしい。
裏面のDIPスイッチのポジションを確認して、接続確認後、電源を投入する。
筆者はGAINをLOW(1,2番をOFF)で設定し、TONEは必要に応じてDIRECT(3-ON,4-OFF,5-ON,6-OFF)とON(3-OFF,4-ON,5-OFF,6-ON)を切り替えている。
セッティングしてすぐの音出しでは、少し硬めで荒い感じがあるが、少しづつカドが取れた感じになってくる。100時間程度で変化がほとんど落ち着いて来たが、しっかりエージングを行って、300時間超のところで試聴に入る。

標準の真空管同士でTUBE-03Jと本機03J+を比較すると、真空管の違いにより、エキサイター的な華やかな高域と僅かに音量方向の変調の雰囲気が変わっている。
大幅な音場の変化をさせずに、音の一つ一つがハッキリしてくるところはTUBE-01JやTUBE-03Jにも通じるところだが、華やかさがより判りやすい変化になっている。
2V系の通常のラインレベルを入力してボリュームを10時以下で使う場合は、穏やかでドライブ感の少ないストレートな音質であるところはTUBE-03Jと同じ傾向であるが、それより上のボリュームでは付属真空管6K4のリモートカットオフ管としての特徴を感じさせる塊感や、コンプレッション感が出てくる。ロック系などには効果的な局面のある部分だ。
周波数方向のバランスでは少し重心が下がる感じが有るが、全帯域でフラットな仕上がりである。
音場は不自然に拡張されるような部分はなく、ソースに対して忠実な方向に維持される傾向。
音像は僅かに大きくなるが、立体感が増強される感じと捉える事が出来るレベルで、ボーカルの浮かび上がる感じなどは心地よく感じる部分と言えよう。

TUBE-03Jでも記したが、本機の使いこなしとしては、ボリュームの組み合わせによるセッティングによるところはTUBE-01Jと同じ方法で、基本的には本機のボリュームを下げ目で後ろに接続してあるアンプのボリュームを上げる事でクリーン系、本機のボリュームを上げ目で後ろに接続してあるアンプのボリュームを下げる事でドライブの掛かった音になるが、本機は初段にオペアンプによるバッファー回路がある為、変化の雰囲気が少々異なり、音作りの幅が広がった感じがする。
また、本機のボリュームはNFB※1NFB:負帰還 回路の出力を反転して入力に戻す事で歪みを打ち消し、増幅率の直線性を改善する方法の一つの帰還抵抗値を調整するタイプなので、電源OFFの時には下流に繋がっているパワーアンプを先にOFFにする事を忘れないでほしい。ちなみにTUBE-01Jのボリュームは入力アッテネーターで、このあたりが音質の違いになっている一部分のようにも感じるという部分は、本機でも同様である。

TONEコントロールについては、全体的に効きが良い感じである。センタークリックが付いたので、とても使いやすくなっている。
BASSのターンオーバー周波数は標準的は位置でスネアの胴鳴りが変化しないぐらいのところだが、ベース、バスドラムのあたりには強く作用する。入力レベルやボリュームの位置にもよるが、+側はボリューム最大時に2時ぐらい、ボリュームを10時の時はBASSが4時ぐらいまでが安定しており、それ以上の部分ではクリップしやすいので注意して使いたい。-側は一般的なトーンコントロールの範囲より深く作用出来るが、+側と違って急激な変化は無い。
TREBLEのターンオーバー周波数はやや低めに感じるが、BASSと違ってピークが少なく、ボーカルのプレゼンスをコントロールしやすいセッティングである。こちらもBASSと同じく変化量はかなり多いが、端まで不安なく使える感じだ。
本機はTONEのON/OFFで位相が反転する仕様なので、複数台を同時使用する場合等には位相管理に注意が必要である。

DC-Input端子は12Vでセンタープラス、ピンは2.1mmで標準的な仕様。1Aぐらいでも十分動作するが、容量に余裕を持たせても良い。
真空管用の高電圧を作り出す回路が有る為、電圧が高めになったりしないようにトランス系の電源アダプタを使う際には電圧の精度に注意してほしい。


本機は真空管とオペアンプを交換して変化を楽しむ事が出来る。
まずは定番の6J1真空管(ミル・スペック選別グレード)への交換だが、6K4と変化の方向がかなり異なり、僅かに暖かみを含んだクリアな方向で変化そのものは穏やかな印象だ。オーディオ用としては守備範囲の広い方向なので、是非使ってみてほしい。周辺機器との兼ね合いでクリアになりすぎたと感じた場合は選別グレードでは無い方の6J1を使ってみるのもアリだ。
また、オプションの真空管制震リングもマイクロフォニック効果を下げる方向で効くので、試してみてほしい。
次にオペアンプだが、本機のトーンコントロール側はJ-FETタイプを使うとノイズが発生する事があるとの事なので、注意してほしい。
OPA627を2回路変換基板にマウントしたものと前段増幅側を交換してみると、ダイナミックで制動力のある頼もしい変化を聴かせてくれる。実音も残響成分もビビッドで、解像度もグっと上がって、音離れも良い感じだ。音場も全体的に表現力が豊かになるので、お勧めのセッティングである。トーンコントロール側は変化量がかなり大きい事が影響しているのか、BASS側が2時を超えたあたりからクリップしやすい感じがあるので、注意してほしい。OPA627はJ-FETタイプなので、トーンコントロール側には対応していない。
OPA1622を変換基板にマウントしたものと前段増幅側を交換すると、OPA627より控えめではあるが、実音のクッキリとしたコントラストの高い音質を聴かせる。解像度も高く、こちらもお勧め出来る。トーンコントロール側に使う時には効きが変わり、BASSの増加方向に注意が必要ではあるが、微量のコントロールの範囲では一段とクリアな音質になった感じが得られる。
LME49720(LM4562)に前段増幅側を交換すると、真空管のエキサイター的な成分が強く表現されるので、効果を強く感じたい時には、、、という感じだ。トーンコントロール側に使うと効きが良くなり過ぎてさらにクリップしやすくなるので、特に注意が必要である。
くれぐれもオペアンプの交換は保証が効かなくなる為、自己責任の範囲で楽しんでほしい。

電源にはリトルスージーやプチスージーを使う事で、解像度、立体感が変化するので、持っている人は是非使ってみる事をお勧めする。

総括
標準の真空管が6K4に変わった事以外にもかなり細かく手が加えられており、6K4と6J1のどちらを使ってもそれぞれに楽しめる音質に仕上がっているところは「+」という一文字よりも大きなものを感じる。トーンコントロールが付いて積極的に音質をコントロールして楽しめる本機は、使いどころの多い、コストパフォーマンスに優れた一台と言える。購入時には6J1真空管の検討も忘れずに。

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谷原 寿栄

谷原 寿栄

音楽業界で30年余年 ミックス/マスタリングエンジニア オーディオ製品開発のアドバイザー 趣味はオーディオとクルマ
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1. NFB:負帰還 回路の出力を反転して入力に戻す事で歪みを打ち消し、増幅率の直線性を改善する方法の一つ

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