*

Labo’s View 028 FX-AUDIO- D802J++

      2019/06/22

『より洗練されたデジタル直結の純度』

FX-AUDIO-のフルデジタルアンプのフラッグシップモデルD802J+がUSB AUDIO CLASS 2.0に対応し出力ローパスフィルターや細かい部分をブラッシュアップしてJ++になった。デジタル入力専用でスタートしたD802J、アナログ入力を装備したD802J+と進化してきた訳だが、果たして今回はどのような進化を遂げたのか、しっかり聴いてみたいと思う。

まず電源を入れて音を出した瞬間に、今までのD802シリーズより滑らかな感じの音になった感じがする。そのまま100時間程度しっかりエージングして試聴に入る。
試聴時の電源電圧は32Vで行った。
第一印象はフルデジタルアンプならではのクリアな音場感と透明感のある音質で、無理な誇張が無く、極めて自然な感じに仕上がっている。
音量の周波数方向に対する反応は低域から高域までフラットでクセのない音の感じで、FX-AUDIO-らしさと言えよう。
ローエンドは素直に伸びていて、不自然な盛り上がりが無く聴きやすい。
ハイエンドも素直に伸びているが、電源の電圧やクオリティで様々に変化する。ピシっと延ばしたい時は32Vの方向、ウエルネスなバランスなら24V周辺、落ち着いた感じは12Vの方向にすると良い。
定位はフォーカスがクッキリとしている。左右方向や音域による差も抑えられていて、フルデジタル機の特長を感じさせるものだ。
音場は左右、奥行とも広がりを綺麗に表現している。左右のスピーカーの内側と外側の差も少なく、自然で誇張の無い正確な感じに仕上がっている。全体的な雰囲気の良さは、フルデジタル機である事に加えて、出力段のローパスフィルターの改良が効いているようだ。
解像度は全域で高めに感じる。低域はバスドラムとベースとの絡みを丁度良い分離感で聴かせる。中域はメインボーカルとコーラスパートを心地よく描き分ける。実音と残響の分離も良好で、残響音の演出もかなり精度良く伝えてくる。
以上の部分はディジタル入力でのインプレッションであるが、本機はUSB AUDIO CLASS 2.0に対応した事で、サンプリングレート192kHzで24bitが選べるようになったところがポイントでもある。組み合わせるPCによって挙動はかなり変わるが、筆者のMacBookの環境では192kHzと96kHzではキメの細かさに変化があり、ソースに応じて使い分ける事で更に面白くなると感じた。
またアナログインプットの音質がかなり良いのも本機の特長で、Wolfson WM8782Sの威力が発揮されている。解像度、周波数レスポンスが良いのはもちろん、音場感、分離感もかなり高いレベルにあり、変換ロスが大変少なく積極的に使って行きたいと感じられるところである。

内蔵のトーンコントロールとイコライザープリセットは排他的では無く、重ねて使えるところも
今まで通りで便利なところだ。
イコライザープリセットの音質変化を簡単に紹介する。
Rock = 中域カット、低域上げ(バスドラム〜ローピッチのスネアドラムの胴鳴りまで)、高域はシャリるギリギリぐらいに上げ。ロック〜EDMまで使えるセッティング
SoftRock = 中低域上げ、低域上げ。ディストーションギターのパワーコードを上手く聴かせるセッティング
Jazz = 中域上げ。ボーカル〜管楽器を強調するセッティング
Classical = 中低域ちょい上げ、中高域ちょい上げ。オーケストラを少し華やかに聴かせるセッティング
Dance = 低域全力上げ。高域を殆ど上げていないセッティングはプリセットのパラメータとしては珍しい。EDMにはもちろん、超小型スピーカーの補正にも使えるセッティング
Pop = 中域上げ。ボーカルを目立たせたい時に使えるセッティング。
Soft = 中高域上げ。全然ソフトでは無いところが面白い。ボーカルにエキサイターが足りていないような時に使えるセッティング
Hard = 低域上げ、中高域上げ。エキサイター的に使える中高域の方向性はSoftど同じ。地味すぎるスピーカーの補正にも使えそうなセッティング
Party = 低域かなり上げ。中低域も上げ。中高域はHardより落ち着いたセッティングだが、全体的に派手系。パーティの名前に合っているセッティング
Vocal = 低域やや下げ。中高域を一部をノッチフィルタでカット。ボーカルのマイクとEQのセッティングがイマイチな場合に使えそうなセッティング
Hip-hop = 低域上げ、中域を狭いQで上げ。ビートとリリックが目立つセッティング
Dialog = 中低域ちょい上げ、中域上げ。会話の音質の修正に使えるセッティング
Loudness1 = 低域上げ。小音量時に使えるラウドネスカーブ(聴感補正カーブ)を意識したセッティング
Loudness2 = 低域かなり上げ。小音量時に使えるラウドネスカーブ(聴感補正カーブ)を意識したセッティングでLoudness1より変化量が大きい
Normal = フラットセッティング。トーンコントロールを使う時はNormalと組み合わせることで、トーンコントロールだけが作用する状態になる。
使い方としては、トーンコントロールで変化させられない領域をイコライザープリセットで選んで、トーンコントロールでより好みに近づけて行く方法をお勧めする。
トーンコントロールの変化については、BASSは若干高めのポイントから効くタイプ。変化量は十分。Trebleは標準的なポイントで、変化量はこちらも十分だ。
内部のDSPが良く出来ており、変化量が大きい時にもクオリティが下がり難い。
完全フラットでオーディオ的な音質にしたい時はリモコンのDIRECTキーを押すと、本体の表示がHi-Fiになるので、その状態で使う。
電源をOFFにするとHi-Fiが解除されてしまうところは、毎回Hi-Fiで使う時には使い難いと思われる。状態が保持されるように今後のバージョンアップを期待したい。

入出力関係はD802J+と同じで、位置も同じである。
DC-Input端子はしっかりしたタイプを使っているが、センターピンは2.5mmなので、2.1mm系のプラグを刺す時には変換コネクタが必要になるので、注意してほしい。
電圧は12Vから32Vに対応しており、大出力が必要な場合は32Vの電源を用意したほうが良いが、電圧の変化で音量、音質共に変化する為、チューニング要素としても使える。
筆者の環境では、電源電圧が高い方がヌケの良い、スピード感のある音になり、電圧を低くすると僅かに柔らかく暖かみのある音質変化した。大音量が必要な時は32Vでの動作が必須だが、極小音量時には12Vで動作させる事で、より繊細な表現を楽しむのもアリだ。
電源の品質は出音に影響してくるのは言うまでもなく、35V対応版のリトルスージー等も威力を発揮するので、持っているユーザーは使ってみてほしい。
USB接続ではPGNIIも使ってみたが音場や歪み感に効果があり、こちらもお勧めである。

スピーカー出力端子に繋がるローパスフィルタのあたりに今回の変更点が見える。
入力端子の近くにA/Dコンバータをレイアウトしているところなど、キッチリ基本が押さえられていて、合理的な設計であることが窺える。

コンパクトにまとまっており、機能が見通せる配置でわかりやすい。トーンコントロールをジャンプしてダイレクトにする機能はリモコンから行う為、無くさないように注意してほしい。

総括
フルデジタルアンプのフラッグシップ機として、音質面では更に充実したモデルに成長していた。USB入力が192kHzの24bitで受けられるようになったところは、最終的に96kHzでプロセスされてしまうと解っていても、音質的に違うものが得られており、そこがオーディオの面白いところと言える。洗練されたフルデジタルらしいクリアな音質と共に、アナログ入力も高い音質レベルにある本機は、幅広い使用シーンに対応出来る万能性もあり、お勧め出来る逸品である。

The following two tabs change content below.
谷原 寿栄

谷原 寿栄

音楽業界で30年余年 ミックス/マスタリングエンジニア オーディオ製品開発のアドバイザー 趣味はオーディオとクルマ
谷原 寿栄

最新記事 by 谷原 寿栄 (全て見る)

 - Labo's View